キッチンカーと屋台の違い
キッチンカーと屋台は、店舗の構造、販売形態のほか、開業に必要な許可や資金が違います。この記事ではこれらの点について具体的にどのような違いがあるか解説します。
新型コロナウイルスの影響でテイクアウトや空気のこもらない屋外での飲食のニーズが高まり、これからキッチンカーでの移動販売を始めようと考えている方もいらっしゃるでしょう。しかしキッチンカーと同じく固定の店舗を持たず移動も可能な販売方式として移動式屋台があります。この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
構造の違い
キッチンカーと屋台は店舗の構造が違います。
キッチンカーはその名前の通り調理設備がついている車両のことを指し、食材を積んでそのまま販売場所まで移動して車内で調理・販売することから、ケータリングカーやフードトラックとも呼ばれます。
バンやトラックをベースに、座席を除去したり荷台にボックスを取り付けたりして調理設備を導入し、キッチンカーとして仕立てます。
一般的に車両の側面や後部が大きく開く作りとなっており、そこから料理の提供や会計などの接客ができるようになっています。
一方、屋台は、立ち売りの商売をするための台を設けた、屋根付きの設備です。商売として日常的に営業している屋台はリアカーや自転車、オートバイが付いていて移動しやすく工夫されているものが多いです。
イベント等の臨時出店では本体だけで移動ができないものの、簡易組み立てが可能なスタンド型も多用されます。
提供方法の違い
キッチンカーと屋台は料理の提供方法が違います。
一般的にキッチンカーは固定された客席を設けていないため、お客様は商品購入後、周囲にあるベンチや広場で飲食するか、あるいは自宅やオフィスに持ち帰ります。テイクアウト用の使い捨ての容器や包材で飲食物が提供されます。
屋台は調理台にカウンターやテーブル、客席が設置され、屋台の中(屋根の下)でそのまま料理が食べられるようになっているお店が多いです。そのため、食器も磁器やガラス等の店内飲食用のものが使われます。
なお、キッチンカー内部に客席を設けることも可能で、このようなものは食堂車やレストランバスとも呼ばれます。大型の車両が必要、営業許可の取得が難しい、特種用途自動車(8ナンバー)登録が必ず必要など導入のハードルは高いですが、珍しいタイプなので注目はされやすいでしょう。
必要となる開業資金の違い
キッチンカーと屋台では開業に必要な資金に差があり、規模や導入設備によっても金額は大きく前後しますが、一般的な相場としてキッチンカーは約200万円~500万円ほどの開業資金が必要になるのに対し、屋台の場合は数十万円程度で開業できるとされています。
キッチンカー固有の費用として、主に車両の購入・維持費が挙げられます。キッチンカーの開業資金のうち8割以上をキッチンカー(車両)の購入・製作費用が占めます。維持費は、ガソリン代や駐車場代、車検費用、自動車保険料などがあります。
屋台の場合は、形態によってかなり値段が変わります。お祭りやイベントなどで使う簡易的な組み立て式のスタンドタイプのもので数万円~10万円ほどです。リヤカーなど移動ができるタイプの屋台は数十万円のものから、100万円をこえるものも販売されています。燃料を使わないリヤカータイプでも、停車のための駐車場代がかかることも。
両者に共通する費用として、出店料と材料の仕入れが挙げられます。仕入れ費用は内容や量によって変動し、出店料は出店する場所や日数によって変わります。
開業に必要な資格・許可の違い
キッチンカーと屋台は、開業に必要な資格や許可にも違いがあります。
キッチンカーと屋台の両方に必要なのは「食品衛生責任者の資格」と「営業許可」です。
食品衛生責任者は、食品を取り扱う施設で食品衛生法を順守し、食中毒が起きたりしないよう衛生管理をする人が持つ資格です。施設に1人、食品衛生責任者を置かなければなりません。
また、飲食店の開業には保健所の許可も必要です。何をどのように販売するかという営業形態の違いで求められる設備基準が異なり、また出店場所を管轄する保健所によっても異なる基準が設けられていることがあるため、キッチンカーや屋台を調達する前に保健所に一度相談するとよいでしょう。
キッチンカーの場合、営業許可の他にも車検が必要になります。キッチンカーに使用する車両のサイズや重量などに合った内容で申請します。
屋台の営業許可には、臨時営業許可と露店営業許可の2つがあります。臨時営業許可は、お祭り縁日などイベントの時だけに出店する時の営業許可です。露店営業許可は中長期の営業を前提とした営業許可で、有効期限内であれば何回でも屋台として出店できますが、自治体によっては露店営業自体を認めていないところもあるので確認が必要です。
営業許可を取るための設備基準の違い
キッチンカーと屋台は、営業許可を取得するために必要な設備基準が異なります。
東京都の設備基準を例にすると、キッチンカーのように車内での調理加工をするためには以下の項目を満たす必要があります。
- 耐水性及び耐久性を持ち、固定された屋根と壁がある自動車で塵埃や昆虫などの侵入が防止できる
- 施設の中は使用目的に応じて区画する
- 品目や量に応じて調理加工をする十分な面積がある
- 内壁/床/天井は清掃しやすい構造
- 施設内には十分な明るさがある
- 必要に応じて換気ができる設備(または構造)がある
- 耐久性のあるスタッフ専用の流水受槽式手洗い設備が適した位置にある
- 耐久性があり飲用に適した水を供給できる18リットル以上の給水タンクと、同等の排水タンクがある
- 廃棄物を入れるための容器は、十分な容量/清掃のしやすさ/汚液やにおいが漏れないふたのあるもの
- 電力装置は食品衛生上支障のない位置にある
- 固定する設備は耐久性がある方法で設置する
つまり、リアカーや幌付きのトラックではキッチンカーとしての認可は受けられません。自分で車両を用意する場合は、基準に応じた改造が求められることもあります。
屋台の設備基準も自治体によって変わりますが、東京都は東京オリンピック開催の影響もあり屋台や路上販売の規制・取締が強化されているため福島県の施設基準を紹介します。
- 施設の設置場所やその周辺が不潔ではない
- 施設には屋根があり、側面と背面の三方がシート等で覆われている
- 必要に応じて手洗い・器具の洗浄設備がある
- 必要に応じて冷蔵設備がある
- ゴミを廃棄する容器は汁が漏れず蓋がついた十分な容量があるもの
キッチンカーと屋台の設備基準を比較してみると、キッチンカーの方が必要な項目が多く、本来営業許可を取るのが難しいといえます。
しかし、法規制や自治体の条例などの影響もあり臨時以外で屋台の営業認可を得ることもまた難しく、ここ数年キッチンカーの数は増え続けている一方で、屋台の数は減少し続けています。
目的に応じて選択したい
キッチンカーと屋台は同じ移動式の調理販売ビジネスとして共通する点もあれば、今回ご紹介したように設備・資金・必要な資格・許可などが異なります。
営業許可のとりやすさなどから考えてもこれから継続して移動販売をするのであればキッチンカーでの開業がおすすめですが、どちらにもメリット・デメリットがあるため、出店の目的などに応じて選択するとよいでしょう。